大判例

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大阪地方裁判所 昭和53年(行ウ)3号 判決

原告

許慶男

右訴訟代理人

上原邦彦

被告

法務大臣

奥野誠亮

右指定代理人

坂本由喜子

西元忠志

被告

大阪入国管理事務所主任審査官

中市二一

右指定代理人

坂本由喜子

外五名

〔主文〕

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

〔事実〕

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告法務大臣が昭和五三年一月三〇日付で原告に対してした出入国管理令第四九条第一項に基づく異議申出を理由なしとした裁決を取消す。

2  被告大阪入国管理事務所主任審査官が昭和五三年二月一日付で原告に対してなした退去強制令書発付処分を取消す。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決

<中略>

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  本件各処分

原告につき、出入国管理令(以下「管理令」という。)二四条四号リに該当するとして退去強制手続が進められ、被告法務大臣は、昭和五三年一月三〇日、原告の管理令四九条一項に基づく異議の申出は理由がない旨の裁決(以下本件裁決という。)をし、被告大阪入国管理事務所主任審査官(以下大阪入管主任審査官という。)は、同年二月一日原告に対し、管理令二四条四号該当者として退去強制令書を発付した(以下本件令書発付処分という。)。

<中略>

三 被告らの主張

1 本件各処分

(一) 原告は、朝鮮慶尚南道宜寧郡嘉礼面加礼里に本籍を有する外国人であるところ、本邦在留中の昭和四九年四月二六日大阪高等裁判所において、殺人、死体遺棄及び威力業務妨害罪で懲役七年の刑に処せられ、右判決は同年五月一一日確定した(以下本件犯罪という。)。<以下、事実省略>

〔理由〕

一請求原因第1項(本件各処分)及び被告らの主張第1項(一)の事実は当事者間に争がなく、右事実によれば、原告が管理令二四条四号リの要件に該当する外国人であることは明らかである。

二そこで本件裁決及び本件令書発付処分の違法性の存否について判断する。

1  法律一二六号<編注―ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く外務省関係諸命令の措置に関する法律、昭和二七年法律第一二六号>二条六項該当者については管理令<編注―出入国管理令>の適用が排除されるとの主張について

原告が法律一二六号二条六項に該当する者であることは当事者間に争いがない。

ところで、同項は、「日本国と平和条約の規定に基づき同条約の最初の効力発生の日において日本の国籍を離脱する者で、昭和二〇年九月二日以前からこの法律施行の日まで引続き本邦に在留するもの(昭和二〇年九月三日からこの法律施行の日までに本邦で出生したその子を含む)は、同令二二条の二第一項の規定にかかわらず、別に法律に定めるところによりその者の在留資格及び在留期間が決定されるまでの間、引続き在留資格を有することなく本邦に在留することができる」と規定しているが、その文言からして、日本国籍離脱者等に対し、同令二二条の二第一項の適用を除外する趣旨の特則にすぎないものであり、同令二四条を含めた同令全体の適用を除外するものでないことは明らかである。

このことは、地位協定<編注―日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定>三条及び特別法<編注―右地位協定の実施に伴う出入国管理特別法>六条が法律一二六号二条六項該当者にも同令二四条の規定の適用があることを当然の前提として、退去強制の基準の緩和をはかつていることに徴し、明白である。

又、同令は本人の意思で本邦に入国した者に適用されることが前提となつているとの原告の主張には根拠はなく、そうすると、原告の前記主張は理由がない。

2  平等原則違反との主張について

特別法六条一項六号によれば、協定永住許可者は、無期又は七年をこえる懲役又は禁錮に処せられなければ退去強制の対象とされないことは明らかであるが、協定永住許可者は、地位協定の実施に伴つて制定された特別法によつて一定の保護を受けている者であるから、それを受けていない者との間に退去強制される場合の基準の程度に差があつても、これを強ち不合理な差別とまではいえず、一般外国人の地位に止まる者が、特別法による右の特権的保護を受ける者と同等の取扱いを受けないことをもつて、憲法一四条や確立された国際法規違反とすることはできない。

3  本件裁決及び本件令書発付処分には裁量権の濫用逸脱の違法があるとの主張について

管理令二四条は、「本邦からの退去を強制することができる」と規定しているが、入国審査官、特別審理官、法務大臣は、認定、判定、裁決をするにつき、同令二四条該当の容疑者が同条の各号の一に該当するかどうかを審査し決定しうるのみで、右該当者について事案の軽重その他の事情を考慮する余地は全くないし、また主任審査官は認定、判定、裁決が確定すると直ちに退去強制令書の発付をしなければならないことは、同令に規定する退去強制手続の構造に照らして明らかであつて、裁量の余地はない。

従つて、被告法務大臣及び被告大阪入管主任審査官に自由裁量権があることを前提にする原告の主張は採用できない。

4  原告は、被告法務大臣が原告に対し特在許可を与えなかつたことにつき、裁量権の濫用ないし逸脱の違法があつたと主張するので判断する。

(一)  法務大臣は、管理令四九条の裁決をする際、異議の申出に理由がないと認める場合でも、一定の要件があるときは、当該容疑者に特在許可を与えることができる(同令五〇条)から、異議を棄却する裁決は、同時に、右特在許可を与えない処分としての性質があると解するのが相当である。したがつて、特在許可を与えない点に違法があれば、異議を棄却する裁決は違法になる。

そして、法務大臣による異議棄却の裁決があつた場合、主任審査官は、必ず退去強制令書を発付しなければならないから、法務大臣の裁決が違法であれば、主任審査官がこれに基づいて行う退去強制令書発付処分も違法になるというべきである。

(二)  ところで法務大臣が、異議申出をした容疑者に対し、同令五〇条による特在許可を与えるかどうかは、同令五〇条の規定の体裁自体、並びに外国人の出入国及び滞在の許否が、条約等による特別の取扱いのない限り、元来国家において自由に決しうる事柄に属することから見て、法務大臣の広い裁量に委ねられていると解すべきであり、従つて法務大臣は、同令五〇条による特在の許否を決めるに当り、国際情勢、外交政策などを考慮し、行政上の便宜ないし目的的見地から恩恵的措置として、その自由裁量の範囲内で決めれば足りるのであるが、他方その裁量は全く無制限なものではなく、著しく人道に反するとか、著しく正義の観念にもとるとか等社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかな場合には裁量権の範囲を逸脱したものとして、またこれを濫用したものとして、違法性を帯びるに至るというべきである。

よつて本件裁決が右趣旨において違法性を有するか否かについて判断すると、<証拠>を総合すると次の各事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(1) 原告は、昭和一七年二月一六日、朝鮮人父許三世、同母金福順(いずれも幼児時来日)の次男として大阪市大淀区で出生し、尼崎市内の小、中学校で義務教育を終えた後、昭和三二年四月同市内の定時制高校に進学したが、昭和三三年夏頃同校を中退した。

(2) 父許三世は数年患つた末、昭和三六年一二月頃死亡し、母金福順もこれに先立ち昭和三四年頃死亡した。

原告の兄弟は、兄慶信、弟慶奎、同平雄、妹初江、同末順の六名であつたが、父親死亡時、平雄以下はいずれも義務教育中であつたため、原告を中心に、慶信、慶奎らが必要の都度金銭を与える等して弟妹らを扶養し成長させた(父親死亡時原告の年令は一九才であつた。)。兄の慶信は本件裁決の少し前に死亡したが、弟妹たちは成人し、それぞれ家庭をもつて通常の生活を送つている。但し末順は、昭和五五年四月頃、その夫を病いで失い、以後幼児一人を抱えて公的扶助や兄姉たちの援助を受けて生活をしている。

(3) 原告は、昭和三九年頃から日本人中本静代と同棲し、その間に女児が出生したが、その後別れ、右女児は静代が引取り養育している。原告はその後、韓国人孫秋子と同棲したが、原告が本件犯罪で服役中別れた。

(4) 原告は中学校卒業後、働きに出たが一個所に定着せず、転々としているうちに、昭和三六年頃まで別表記載のとおりの非行を重ね、処分や処罰を受けた。しかし成人に達した頃から右のような生活は改まつたが、昭和三九年頃、右翼暴力団関西護国団に入団し、同団安田隊隊員として活動するようになり、その間ダンプカーを所有して稼働したりしていた(その間の処罰歴は別表記載のとおり。)が、昭和四五年頃から内妻孫秋子とともにスナック店を経営する傍ら、昼中は関西護国団の一員であつた大山幸雄こと李三雨に頼まれ、債権の取立に手を出すようになつた(本件犯罪中、威力業務妨害罪に問われた犯行は、右債権取立にからむものである。)。本件犯罪中、中心的な犯罪は山崎〓夫に対する殺人罪であるが、右犯行も李との交際の中から、関西護国団にからむ紛争に端を発して犯されたものであり、その主犯は李であつたものの、原告も実行行為時には被害者の身体を押えつけてその殺人に加功した(但しその前に二、三度李を制止した事実はある。)。なお原告は右犯行についての一、二審の裁判の過程で、右制止の事実や犯意について弁解する機会は与えられた。

(5) 原告は本件犯罪については十分に反省をし、服役態度も良好であつた。弟妹らも原告の更生に協力する態勢にあり、原告が引続き日本に在留することを強く希望している。中でも初江は原告に対して深く恩義を感じていて特に積極的である。

(6) 原告は日本語しかしらず、朝鮮語については読解能力も、会話能力もなく、送還先の朝鮮には身寄り、知人はいない。

以上の事実中、特に(5)及び(6)の各事実は原告に有利な事情であり、原告及びその弟妹らが、原告が引続き弟妹らとともに本邦に在留することを強く希望していることには同情すべき点はあるが、他方、(4)で認定した原告の本件犯罪に至るまでの経歴や本件犯罪の重大性及び原告が未だ新環境に対する適応力を失つていないはずの健康な壮年であること並びに扶養すべき家族もいないこと(本件裁決後の事情ではあるが、末順の身上を考慮に入れるとしても、同女自身生活能力のある成人であり、他に兄姉がいるのであるから、原告の扶助を受けなければその生活が維持できない事情にあるとは思われない。)等の諸般の事情を勘案したと判旨き、被告法務大臣が原告に特在許可を与えなかつたことが、著しく人道に反するとか、著しく正義の観念にもとるとか等社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかなものということはできないから、結局本件裁決に裁量権の濫用や逸脱があつたとするわけにはいかない。

5  なお原告は、懲役八年の刑を受けた訴外申京煥が被告法務大臣により特在許可を与えられた(当事者間には争はない。)例を挙げて、平等原則、比例原則違反を主張するが、特在許可の許否の裁最においては、当該異議申出人の個人的事情や法的地位、その時々の政治、外交上の事情等も考慮の対象とされうるのであるから、単に刑期の点のみを理由として比例原則、平等原則違反と断ずることはできず、従つて右主張は失当である。

別表

昭和三二年 九月一〇日

傷害

不送致終結

〃  三四・ 七・一六

強盗

中等少年院送致

〃     一〇・二四

暴力行為等処罰に関する法律違反

審判不開始

〃     一〇・二六

恐喝

不処分

〃  三五・ 八・一六

暴力行為等処罰に関する法律違反罪

不処分

〃  三六・ 七・ 七

窃盗

懲役二年(執行猶予三年)

〃  四〇・ 九・一五

外国人登録法違反

罰金二千円

〃     一〇・一九

業務上過失傷害

〃 七千円

〃     一一・一八

業務上過失傷害・道路交通法違反

〃 三万円

〃  四二・ 七・ 五

道路交通法違反

〃 一万五千円

〃  四四・ 六・三〇

建造物侵入未遂

起訴猶予

6  本件裁決及び本件令書発付処分が、確立された国際慣習法及び憲法九八条二項に違反するとの主張について

原告の主張する国際赤十字の第一九回国際会議における「戦争、内乱その他政治的な紛争で生じた離散家族を再会させる決議」は、その成立の過程、形式からも明らかなように、あくまで道義の次元に位置するものにすぎず、確立した法意識に支持されて、国際法規にまで高められたものということはできない。

従つて、原告のこの主張は理由がない。

三以上の次第で、本件裁決には違法はなく、これを受けてなされた本件令書発付処分にも違法はない。

よつて原告の請求はいずれも失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(乾達彦 国枝和彦 市川正巳)

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